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2020年5月13日水曜日

鏡の向こう側 (短編)

小説投稿サイトに投稿した作品です。下のリンクのページ。
感想いただけてとても嬉しかったです。書いていたときに自分が思っていた以上のことを考えて読んでいただけたようで…
私のやりたいことが少しできた気がしました。

http://tanpen.jp/211/3.html

大学入学のオリエンテーションが終わって、家に戻った。連絡先を交換した人から食事の誘いが早速来ていた。「明日のお昼集まろ!」人からメッセージが来るの、何年ぶりだろう。飛び上がって喜びたいところだけど、とりあえず風呂に入って、それから返信だ。
曇っている風呂の鏡に何気なくシャワーをあてる。自分の顔を見ると、いつの間にか大人になっていたらしいことに気づかされる。風呂に浸かると、どっと疲れが出た。自分が思っていた以上に全身に変な力が入っていたんだ。眠いわ。温かくなった手のひらで目を覆うと、気が遠くなって…

口に風呂の水が入って、溺れかけて目が覚めた。危ない。ふと鏡を見ると、シャワーの水をかけた部分に中学生の私の顔が映っている。涙目の中学生の私は私と目が合うと、恐怖の混じった驚きの表情を浮かべた。あ、あの日だ。私は気づいたら叫んでいた。
「諦めないで!あんたの苦しみは今日この日のためにあったんだって絶対思えるから!」
思いと一緒に涙が溢れた。でも、鏡の私の涙とは違うんだ。

中学生の頃、変な夢を見た。いや、夢だと思っていた。
いじめにあっていた私は、辛い日に風呂場で泣くのが日課となっていた。シャワーを浴びてしまえば泣いてもごまかせるから。長い時間風呂に入るせいで、のぼせてしまって、意識朦朧夢うつつ、なんてときも結構あった。このまま目覚めなければ良いのに、そう思いながら。まさに夢うつつ、鏡を見ると、全然知らない大人の女性が鏡に映っていた。鏡の女性は何か叫んでいたが、声はこちらの世界には聞こえない。誰だかわからないけど、どこかで会ったことがあるような感じがした。呆然としているうちに、鏡には元の涙目の自分の顔となった。
私が小さい頃死んでしまったお母さんの幽霊だったんじゃないか、そのときはそう思った。毎日私が泣いてばかりいるから心配して出てきたのかな。そう思うと、さらに泣けてきた。たった一人でも、既に死んでいたとしても、私のことを思ってくれる人がいるなら、その人のために頑張らなくちゃ…鏡の向こう側で見ている人のために、せめて強く生きていこう。心の中で強く誓って、またシャワーを浴びた。

鏡には中学生の私はもう消え、大学生の私がいる。…いや、待って、あのときの私。動揺していたけど、大学生の私をお母さんだと思うなんて。そんな老けてないわ。自分の顔を見て思わず笑った。自分の笑顔を久しぶりに見たかもしれない。

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