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2020年6月14日日曜日

一歩手前(短編)

http://tanpen.jp/212/1.html

小説投稿サイトに投稿した1000文字小説です。感想いただけて嬉しかったです。

「ええっ、まだ付き合ってないの?」
友達が迫ってくる。この展開は毎度のことだが苦手だ。
「だから・・・そんなんじゃないんだって」
「そんなん、って何よ、佐藤くんだよ?」「つばさはそれで良いの?」
「うーん・・・」

クラスで一番のイケメン(と私が思っている)佐藤くんとGWに二人でみなとみらいに出かけた。第三者から見れば、高校生の男女が休みに港町、なんて、確かにカップルに見られてもおかしくない。自分でも、そういう年齢だよね、とは思う。ただ、そんなんじゃないんだって。私と佐藤くんとじゃあ釣り合いが合わない、というのもあるけれど、こんな私と一緒にいたのは、幼馴染だから、というだけ。

「二人でどんな話してんの」
「ええっ、あそこのお店美味しそう、とか、天気が気持ちいいね、とか、あっ、でもこの前は・・・」

そういえば、帰りの桜木町駅で珍しく佐藤くんから恋愛のことを聞かれたっけ。
「つばさは恋人とか作ろうとは思わないの」
「んー、いたら楽しいかも、とは思うけど、ちゃんと恋人になれる自信はないですね。私、どんくさいし、なんか、そういうちゃんとした関係にはなりたくないような」
「まあ、難しいよね、たぶん」
イケメンなまま佐藤くんは「おれもそう思うわ」

「それだわ」友達がやれやれ、と首を振る。「そこで、恋人になろうよ、って続くはずだったんだよ、それなのに変な答えをするから」
「いやいや、ないって。それに佐藤くんも、おれもそう思うって言ってた・・・」
「あんたに合わせてくれたんでしょうが」
「いや、でも私なんて『オンナ』と思われてないし・・・」
「なんでそんな自信ないの!」

面倒くさくて、走って逃げちゃった。後ろでキャーキャー声がしている。
休み時間は学校内カップルの時間でもあるみたいで、食堂にはカップルの姿がちらほらあった。気まずい。隣の売店に入ると、佐藤くんが買い物をしていた。よくこの休み時間に間食を買いに来ているんだった。
「あっ」今まで話題に挙がっていた本人と出会ってしまった。
「つばさ、よっ」

「そのおまんじゅう、好きだよね」
「安くておいしいから。そこでちょっと食べて行こう、少しあげる」

私は佐藤くんの幼馴染、かつ、一ファンに過ぎないから。好きじゃないの?って聞かれると答えに困るけど、まさに今、この関係性で一緒にいたいと思うのは、そんなに間違っていることかしら。
半分くれたおまんじゅうはあんこがぎっしり詰まっていて甘かった。

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