2020年10月13日火曜日

おはぎ(短編)

投稿した短編小説です。

 http://tanpen.jp/214/6.html


彼と会ったのは久しぶりだった。八年ぶりくらいか。なんかおっさんになったな。
「お前は変わんないな」
変われないだけだ。彼は苦笑いした。
「おはぎ食いな」
サンキュー。あんこ最高だよな。
「類に会ったよ、覚えてるか」
覚えてるよ。小学生の頃は類と俺ら、いつも三人だったな。
「なんとなくおとなしい奴だったのに、あいつ髪染めてチャラチャラしててさ、いかにもFラン大学生」
それ笑える。でもあいつイケメンだからな。…ところでFランって何のことだ。
「類に『お前、昔面白い奴だったのになんか変わったな』って言われて。俺はずっと静かな人見知りキャラだ、変わったのはお前、そう思ったけど」
うん。人見知りだけど面白いキャラクターだわ。
「俺も変わってしまったってことなのかな。なんかすごい色んなもの失ってきた気がするわ」
そりゃ変わるよ。何年経っていると思っているんだ。俺にはお前が大人になったように見える。類もたぶんそう。それぞれの世界で成長して進化して、今にたどり着いたんだろ。恐れるなよ。びびりだな。お前、昔から頭良いけど、考えすぎなんだよ。
「だって、お前と、類と、三人でいたあの頃、すげー楽しかったから、失いたくないんだよ、あの頃の感覚とか」
小学生の思い出を大切に思ってくれているんだ。恥ずかしいこと言うじゃん。目があった気がした。
「やっぱり俺ももう大人だからな。小学生の頃みたいに無邪気にみんな友達、とはいかないのかな」
それはそうだって。変わるよ。でもさ、変わらないものもある。だからこうして会いに来てくれたんじゃないか。あの頃、三人で仲良く遊んでいた、あの時間、あの世界はずっとなくならない。戻れなくても、そこにある。
お前は成長したけど、考えすぎなところも、結局俺のところに来るところも変わってないじゃんか。
「いつも困ったことがあるとお前に愚痴こぼしていたな、やっぱり変わってないか」

「今日は来てくれてありがとう」
おばさんがおはぎを出してくれる。親友の遺影は小学生の頃の無邪気な笑顔だ。
持ってきた日本酒を出す。結構高かった。
「お酒、あいつ飲めますかね」
「私は飲めないけど、お父さんに似たなら結構いけると思うよ」
生きていれば成人していたはず。あいつの時間は止まったままだ。そう思えば、俺はちゃんと成長して年をとるべきだ。そう、変わるべきなのだ。

あいつはお盆に帰ってきているだろうか。仏壇のろうそくの火が風もないのに揺れていた。

2020年10月1日木曜日

マイブログ(短編)

 

投稿サイトに投稿した短編です。

http://tanpen.jp/214/6.html

一応アイドルを自称しているので、インターネットは苦手でも、ネット情報の発信や視聴者やファンの反応には神経質なつもりだ。今日も私は仕事の合間にエゴサーチしている。

アイドルといっても、人気はまだまだだからエゴサーチしてもなかなかヒットしない。でもまとめサイトやウィキペディアの自分のページを見つけたときは嬉しかった。小さい役でもテレビに出ると反応もあった。
そんな中、たまたまツイッターを検索していたら、私のブログを紹介してくれている人を見つけた。そのブログを見てみる。
ブログといっても短い日記と写真みたいなものだ。

6月18日21:00
今日はとある仕事の後、プライベートでホタルの里公園に行きました。アイドルがいたのに誰にも気づかれないwマスクしてたし暗かったから!写真は駅のです。
(写真はこちら)

6月19日21:00
朝の電車が遅れていて、仕事の現場で食べる予定だった朝ご飯が食べれませんでした。ダイエットw
今日は金曜日、明日お休みの方は今週お疲れ様!そうじゃない方、一緒に頑張りましょう!

6月21日21:00
仕事の現場に以前お世話になった先生が偶然いらして感動しました。先生は訳あって写真NGなので、載せられないのが残念!代わりに私の高校時代の写真をどうぞ(なぜw)
(写真はこちら)

ブラウザーのバックボタンを押した。
私のことが詳細に書いてある。だが、私はこのブログをやっていない。
なりすまし?ストーカー?
…こんなに詳しく書ける訳がない。外で偶然見かけた、とか出演情報なら調べればわかるのでそれはともかく、プライベートで誰にも声かけられなかったこと、とか、仕事の現場にいないと知り得ないことまで書いてあるのだから。

「そろそろ出番だよ」
私の女性マネージャーが声をかけた。

私は、彼女の顔を見ることができなかった。