2020年12月6日日曜日
まぼろし(短編)
2020年11月15日日曜日
マスク(短編)
短編を投稿サイトに投稿しました。
昔の人は人前でさえマスクをつけていませんでした。
先生がそう言うと教室はざわついた。男子は爆笑、女子は恥ずかしそうな高い声。だいたいこの授業をすると、はじめはこうなる。
原始人、恥ずかしくなかったのかよ。
それに汚いです。つばとか。
生徒たちは叫んだ。
そうね、確かに汚いね。マスクを着けるきっかけはつばでうつる感染症だった、なんて話もあります。
多分、昔の人は、体を触れたりするのも今よりたくさんしていたし、衛生面…きれいにしなきゃって意識が低かったのね。
あと、そう、恥ずかしい…その意識もあまりなかったのでしょう。マスクをしていないから、相手の顔も自分の顔も丸見えなんですけど、…
生徒たちの笑い声が響く。
うん。今は考えられないですね。でも、顔を見て、お互いに思っていることを伝え合っていたようなんです。逆に言うと、そうしないと生きていけなかった。
生徒たちはきょとんとした。教室が静かになった。
昔はひとりひとりの自由やプライバシーが守られていなかったの。心も体も。顔を隠せない。自分の思っていることさえ人に見せないといけない。人が飛ばすつばからも逃げることができなかったのです。
でも、そうしないと生きていけなかった。人と人との距離が今より近くて、近すぎて、逃れる方法がありませんでした。何かイメージとしては、自分の部屋のドアを閉めることが禁止されている、みたいな。だから、自分の自由や選択はあまり大切にされなかった。常に他の人たちの目があって、ある程度決まったことしかできなかったのです。人と違うことはしにくい。
今は自由で自分自身をちゃんと守れますね。だけど、昔の人の考え方にも良いことはあります。どこだと思いますか?…難しい?
昔の人はみんなすごく距離が近い。他人でも。だから、自分だけで何かをするのは難しいけれど、みんなで何かする時はすごくうまくいっていたと思います。他人の考えていることを顔で伝え合えるので。そして、ひとりひとりの責任も今より軽かったと思います。一人でなくて全体、みんなの責任となったはずです。
…まあ、昔のことだからわからないけどね。ちょっと考えてみてください。色々な考え方があると思いますので。
そろそろこの授業も終わりの時間ですね。少し早いけど、休み時間にしてください。
生徒たちは自分の仮面に手を触れた。人前で仮面を外すのは、人前で裸になるような恥ずかしいこと、そう教わってきたのだった。
2020年10月13日火曜日
おはぎ(短編)
投稿した短編小説です。
彼と会ったのは久しぶりだった。八年ぶりくらいか。なんかおっさんになったな。
「お前は変わんないな」
変われないだけだ。彼は苦笑いした。
「おはぎ食いな」
サンキュー。あんこ最高だよな。
「類に会ったよ、覚えてるか」
覚えてるよ。小学生の頃は類と俺ら、いつも三人だったな。
「なんとなくおとなしい奴だったのに、あいつ髪染めてチャラチャラしててさ、いかにもFラン大学生」
それ笑える。でもあいつイケメンだからな。…ところでFランって何のことだ。
「類に『お前、昔面白い奴だったのになんか変わったな』って言われて。俺はずっと静かな人見知りキャラだ、変わったのはお前、そう思ったけど」
うん。人見知りだけど面白いキャラクターだわ。
「俺も変わってしまったってことなのかな。なんかすごい色んなもの失ってきた気がするわ」
そりゃ変わるよ。何年経っていると思っているんだ。俺にはお前が大人になったように見える。類もたぶんそう。それぞれの世界で成長して進化して、今にたどり着いたんだろ。恐れるなよ。びびりだな。お前、昔から頭良いけど、考えすぎなんだよ。
「だって、お前と、類と、三人でいたあの頃、すげー楽しかったから、失いたくないんだよ、あの頃の感覚とか」
小学生の思い出を大切に思ってくれているんだ。恥ずかしいこと言うじゃん。目があった気がした。
「やっぱり俺ももう大人だからな。小学生の頃みたいに無邪気にみんな友達、とはいかないのかな」
それはそうだって。変わるよ。でもさ、変わらないものもある。だからこうして会いに来てくれたんじゃないか。あの頃、三人で仲良く遊んでいた、あの時間、あの世界はずっとなくならない。戻れなくても、そこにある。
お前は成長したけど、考えすぎなところも、結局俺のところに来るところも変わってないじゃんか。
「いつも困ったことがあるとお前に愚痴こぼしていたな、やっぱり変わってないか」
「今日は来てくれてありがとう」
おばさんがおはぎを出してくれる。親友の遺影は小学生の頃の無邪気な笑顔だ。
持ってきた日本酒を出す。結構高かった。
「お酒、あいつ飲めますかね」
「私は飲めないけど、お父さんに似たなら結構いけると思うよ」
生きていれば成人していたはず。あいつの時間は止まったままだ。そう思えば、俺はちゃんと成長して年をとるべきだ。そう、変わるべきなのだ。
あいつはお盆に帰ってきているだろうか。仏壇のろうそくの火が風もないのに揺れていた。
2020年10月1日木曜日
マイブログ(短編)
投稿サイトに投稿した短編です。
一応アイドルを自称しているので、インターネットは苦手でも、ネット情報の発信や視聴者やファンの反応には神経質なつもりだ。今日も私は仕事の合間にエゴサーチしている。
アイドルといっても、人気はまだまだだからエゴサーチしてもなかなかヒットしない。でもまとめサイトやウィキペディアの自分のページを見つけたときは嬉しかった。小さい役でもテレビに出ると反応もあった。そんな中、たまたまツイッターを検索していたら、私のブログを紹介してくれている人を見つけた。そのブログを見てみる。
ブログといっても短い日記と写真みたいなものだ。
6月18日21:00
今日はとある仕事の後、プライベートでホタルの里公園に行きました。アイドルがいたのに誰にも気づかれないwマスクしてたし暗かったから!写真は駅のです。
(写真はこちら)
6月19日21:00
朝の電車が遅れていて、仕事の現場で食べる予定だった朝ご飯が食べれませんでした。ダイエットw
今日は金曜日、明日お休みの方は今週お疲れ様!そうじゃない方、一緒に頑張りましょう!
6月21日21:00
仕事の現場に以前お世話になった先生が偶然いらして感動しました。先生は訳あって写真NGなので、載せられないのが残念!代わりに私の高校時代の写真をどうぞ(なぜw)
(写真はこちら)
ブラウザーのバックボタンを押した。
私のことが詳細に書いてある。だが、私はこのブログをやっていない。
なりすまし?ストーカー?
…こんなに詳しく書ける訳がない。外で偶然見かけた、とか出演情報なら調べればわかるのでそれはともかく、プライベートで誰にも声かけられなかったこと、とか、仕事の現場にいないと知り得ないことまで書いてあるのだから。
「そろそろ出番だよ」
私の女性マネージャーが声をかけた。
私は、彼女の顔を見ることができなかった。
2020年7月5日日曜日
不幸になる薬 (短編)
http://tanpen.jp/213/13.html
発明家の先生を誇らしく思っていた。人の幸せを研究していて、飲むだけで人を幸せにする薬を開発しようとしていた。そんな夢のようなことを本当にまじめに実直に研究していたので、そんな偉大な発明で、人のために力を尽くす先生をかっこいいと思っていた。先生はきっとできると思っていたし、助手の私もそう思っていた。そして、密かに先生に恋もしていた。
失敗続きで資金もわずかになっていた。そんなとき、先生は変なにおいのする泥のような液体を持ってきた。「飲むだけで不幸になる薬だ。とんでもない発明だ。」やつれた顔で笑う表情に、かつての実直だった先生はもうそこにいないと気付いた。
不幸になる薬は、これまで先生の発明を嘲笑してきた顔見知りの発明家や科学者数人で試された。ばれたら大問題だが、先生は実行してしまった。研究発表の場でこっそり料理に混ぜ込んだと言う。顔見知りだった発明家は発明に失敗して事故を起こしたり、ある科学者は過去の論文ねつ造が明らかにされたり。もちろん身から出たさびもあるが、実直な先生を尊敬する気持ちは完全に消えた。先生のこれまでの研究はこんなことのためにあったのではない。私は絶望して助手を辞めた。
数か月経った。
薬を知らぬ間に盛られた人たちを私は密かに注視していた。私も先生の研究を長く支えてきたものとして責任を感じていた。どうしようもなく不幸になっていけば、何とか助けなければならない。だが、それは杞憂だった。
発明家は、発明の失敗から再起していた。発明家は失敗続きなのだが、先生もそうだったように、失敗に慣れているのだ。たくましく研究を続けていて、何の縁だか宇宙開発のチームに参加している者や、あるいは、事故ですべてを失ったものの、宗教に目覚めて仏道に入った者まで、この失敗をきっかけに新たなスタートを切っている者ばかりだ。論文ねつ造が発覚した科学者は、その結果ばかりが求められる科学の変革が大いに盛り上がって、研究倫理の改革についてコメントする立場になって、自分の新たな居場所を見つけていた。
発明は成功していたのだ。彼らは一時的に不幸となったが、禍福は糾える縄の如し、幸せになっていったのだ。本当は自殺でもする覚悟で持ち歩いていた、あの不幸になる薬のカプセル…私もこの薬を飲もう。
先生は政治家と手を組んだ。例の薬の軍事利用を研究しているとか。
あの薬を発明して一番不幸になったのは先生だったに違いない。
2020年6月14日日曜日
一歩手前(短編)
小説投稿サイトに投稿した1000文字小説です。感想いただけて嬉しかったです。
「ええっ、まだ付き合ってないの?」
友達が迫ってくる。この展開は毎度のことだが苦手だ。
「だから・・・そんなんじゃないんだって」
「そんなん、って何よ、佐藤くんだよ?」「つばさはそれで良いの?」
「うーん・・・」
クラスで一番のイケメン(と私が思っている)佐藤くんとGWに二人でみなとみらいに出かけた。第三者から見れば、高校生の男女が休みに港町、なんて、確かにカップルに見られてもおかしくない。自分でも、そういう年齢だよね、とは思う。ただ、そんなんじゃないんだって。私と佐藤くんとじゃあ釣り合いが合わない、というのもあるけれど、こんな私と一緒にいたのは、幼馴染だから、というだけ。
「二人でどんな話してんの」
「ええっ、あそこのお店美味しそう、とか、天気が気持ちいいね、とか、あっ、でもこの前は・・・」
そういえば、帰りの桜木町駅で珍しく佐藤くんから恋愛のことを聞かれたっけ。
「つばさは恋人とか作ろうとは思わないの」
「んー、いたら楽しいかも、とは思うけど、ちゃんと恋人になれる自信はないですね。私、どんくさいし、なんか、そういうちゃんとした関係にはなりたくないような」
「まあ、難しいよね、たぶん」
イケメンなまま佐藤くんは「おれもそう思うわ」
「それだわ」友達がやれやれ、と首を振る。「そこで、恋人になろうよ、って続くはずだったんだよ、それなのに変な答えをするから」
「いやいや、ないって。それに佐藤くんも、おれもそう思うって言ってた・・・」
「あんたに合わせてくれたんでしょうが」
「いや、でも私なんて『オンナ』と思われてないし・・・」
「なんでそんな自信ないの!」
面倒くさくて、走って逃げちゃった。後ろでキャーキャー声がしている。
休み時間は学校内カップルの時間でもあるみたいで、食堂にはカップルの姿がちらほらあった。気まずい。隣の売店に入ると、佐藤くんが買い物をしていた。よくこの休み時間に間食を買いに来ているんだった。
「あっ」今まで話題に挙がっていた本人と出会ってしまった。
「つばさ、よっ」
「そのおまんじゅう、好きだよね」
「安くておいしいから。そこでちょっと食べて行こう、少しあげる」
私は佐藤くんの幼馴染、かつ、一ファンに過ぎないから。好きじゃないの?って聞かれると答えに困るけど、まさに今、この関係性で一緒にいたいと思うのは、そんなに間違っていることかしら。
半分くれたおまんじゅうはあんこがぎっしり詰まっていて甘かった。
2020年6月6日土曜日
角川武蔵野文学賞
応募してみました。下記サイトにて。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054897176365/episodes/1177354054897176384
2020年5月13日水曜日
鏡の向こう側 (短編)
感想いただけてとても嬉しかったです。書いていたときに自分が思っていた以上のことを考えて読んでいただけたようで…
私のやりたいことが少しできた気がしました。
http://tanpen.jp/211/3.html
大学入学のオリエンテーションが終わって、家に戻った。連絡先を交換した人から食事の誘いが早速来ていた。「明日のお昼集まろ!」人からメッセージが来るの、何年ぶりだろう。飛び上がって喜びたいところだけど、とりあえず風呂に入って、それから返信だ。
曇っている風呂の鏡に何気なくシャワーをあてる。自分の顔を見ると、いつの間にか大人になっていたらしいことに気づかされる。風呂に浸かると、どっと疲れが出た。自分が思っていた以上に全身に変な力が入っていたんだ。眠いわ。温かくなった手のひらで目を覆うと、気が遠くなって…
口に風呂の水が入って、溺れかけて目が覚めた。危ない。ふと鏡を見ると、シャワーの水をかけた部分に中学生の私の顔が映っている。涙目の中学生の私は私と目が合うと、恐怖の混じった驚きの表情を浮かべた。あ、あの日だ。私は気づいたら叫んでいた。
「諦めないで!あんたの苦しみは今日この日のためにあったんだって絶対思えるから!」
思いと一緒に涙が溢れた。でも、鏡の私の涙とは違うんだ。
中学生の頃、変な夢を見た。いや、夢だと思っていた。
いじめにあっていた私は、辛い日に風呂場で泣くのが日課となっていた。シャワーを浴びてしまえば泣いてもごまかせるから。長い時間風呂に入るせいで、のぼせてしまって、意識朦朧夢うつつ、なんてときも結構あった。このまま目覚めなければ良いのに、そう思いながら。まさに夢うつつ、鏡を見ると、全然知らない大人の女性が鏡に映っていた。鏡の女性は何か叫んでいたが、声はこちらの世界には聞こえない。誰だかわからないけど、どこかで会ったことがあるような感じがした。呆然としているうちに、鏡には元の涙目の自分の顔となった。
私が小さい頃死んでしまったお母さんの幽霊だったんじゃないか、そのときはそう思った。毎日私が泣いてばかりいるから心配して出てきたのかな。そう思うと、さらに泣けてきた。たった一人でも、既に死んでいたとしても、私のことを思ってくれる人がいるなら、その人のために頑張らなくちゃ…鏡の向こう側で見ている人のために、せめて強く生きていこう。心の中で強く誓って、またシャワーを浴びた。
鏡には中学生の私はもう消え、大学生の私がいる。…いや、待って、あのときの私。動揺していたけど、大学生の私をお母さんだと思うなんて。そんな老けてないわ。自分の顔を見て思わず笑った。自分の笑顔を久しぶりに見たかもしれない。
2020年4月19日日曜日
カクヨムで投稿します
少し書きためていた短いホラーです…
百物語を目指します。下記リンクを見てみてください。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054895667524
2020年4月2日木曜日
(短編)私は詩が嫌いになった
投稿した小説です。途中で詩人の名前を間違えてて恥ずかしい…
感想をもらえて嬉しかったです。
私にとって詩を書くのは、きれいな例えじゃないけど、トイレに行くようなもの。日常の色んなことを私のフィルターで消化すると、詩が自然と生まれる。だから外に出さないと体が変になる。
別に誰かに見てほしいと思っていた訳じゃないけど、紙に書くのより管理しやすいから、投稿サイトで投稿しつつ、Twitterでつぶやくことにした。
私みたいにぽつぽつ詩をつぶやく人とか有名人をフォローして、私のフォロワーは20人ほどで、詩をつぶやいても何の反応もなし。時々、「闇を感じる」とか言われたけど、別にいい。たくさんフォローされて、(いいね)って言われている人が少しうらやましいけれど、私の詩はそういうものじゃないから、別にいい。
スマホの通知が突然鳴り続けて焦った。何が起きたかわからない。
Twitterの通知が大量に来ていた。通知の嵐の中、よく確認したら、私のお気に入りの現代詩人の一人、ぷらぷらさんに私の詩がリツイートされた、お褒めの言葉と一緒に。「幻想的。世界の切取り方が美しい。この詩はもっと読まれるべき」
投稿サイトでもTwitterでも、誰にも反応がないのが普通。学校で詩を書く機会もあったけれど、これまで正直誰からも詩を誉められたことはなかった。あ、小学校の先生に、あなたの詩は不幸な感じがする、とか言われたことはあったかな。
詩を褒められたらこんなに嬉しいのか。私の詩はもっと読まれるべき。
その日以降、私の詩はコメントが一気に増え、フォロワーも増えた。コメントが難しい書き方でよくわからないことも多かったし、そんなこと思って書いた訳じゃないよ、というものもあった。ただ、評価は嬉しいし、私の発する短い言葉の意味がどんどん広がるのがドキドキする。ファンみたいな人も出てきて、恥ずかしいけれど、届けたい、とも思った。
ぽつぽつさんは私を発掘したという気持ちがあったようで、色々助けてくれた。出版社などにもコネがあり、詩や短編小説を公表する機会をもらえた。
公表機会が増え、評価の声も幅広くなったが、私が良いと思うものと、良い評価がもらえるものがズレる。
詩を書くことにはじめて悩んだ。ぽつぽつさんは言った。「詩に絶対はない、『意味』だから。自分が良いと思うものを作るか、他人に良いと思われるものを作るか、自分で決めないとね」
ぽつぽつさんは自分が良いと思っているものを作っているのだろうか。寂しそうな顔の意味を私は考えていた。
http://tanpen.jp/210/4.html
2020年3月6日金曜日
(短編)博士とロボット
不便な山奥にその研究所はあった。研究所と言っても、ただのボロボロの小屋だ。そこにはほとんどものがない。ただ少しの研究機材と、A博士とAの作った人工知能搭載ロボットの二人がいた。
Aはよく言えば、ある意味純粋で一途な研究者だった。それゆえ、人の社会とは合わず、人の黒い部分を前に辛い経験をしてきたのだった。社会と離れ無欲で追求した結果、人知れず高度な技術でロボットを作り、一緒に暮らしていた。
Aはそういう人だから、ロボットが学習してきたのは、純粋な感情と研究所の周りの自然、そしてそこで流れるゆっくりした時間だけだった。Aはそんなロボットが美しいと思っていた。
あるとき、Aの知り合いの研究者が訪ねてきた。彼はAの能力は尊敬しつつも、性格は逆で、Aを人としては軽蔑さえしていた。というのも、彼は、その研究や能力を人の社会で発表し、役立て、そして認められる、そこに価値がある、という信念を持っていたからだ。
彼はAの研究成果を社会に発表すべきだと思っていた。今回、ちょっとした作戦を練っていた。彼としては、Aの研究は素晴らしいが、Aの狭い世界でとどまり、その結果更なる発展のチャンスを失っていると感じていた。そこで、インターネットをロボットに接続し、広い世界の知識、情報を人工知能で学習させようと考えていた。Aはインターネットのように外の情報を得るツールをほとんど持っていない。研究を少しでも高めてあげたい、そういう彼の善意でもあった。そして社会貢献へと繋げたかった。
Aは外の情報と繋ぐことを拒んだが、純粋なロボットはこの提案に賛成した。
「私は外の世界を見てみたいです。」
彼はロボットがこんなことを言うので正直驚いていた。この研究は本当にすごい。
Aも、お前がそう言うなら、と了承した。
彼の持ってきた機材により、山奥の研究所でもコードを繋げばインターネットと接続できる。これで世界中の英知を学習させられる…
接続した瞬間、ロボットは恐ろしい表情を浮かべ、倒れ込んだ。そして自らコードを抜いた。
「お前は何をした!?」
Aはロボットに駆け寄り、彼を睨んだ。
彼には何が起きたかわからない。
「博士…人は恐ろしいですね。これを接続した途端、大量の悪意が見えました。」
「そうだ…だからだ、私が人の社会から離れたのは。こうなると気づいてやれなくてすまない。」
彼はもう二度とこの研究所に来ることはできないと感じ、機材と去っていった。
http://tanpen.jp/209/2.html