2021年3月6日土曜日

彼女いない同盟の君と(短編)



2/14は年に一度の彼女いない同盟の会合の日だ。同盟と言っても二人だけだが。僕と海。海は幼なじみで腐れ縁、結局高校三年まで同じ学校。
「この日に男二人とか悲しすぎだわ…」僕が言うと、海が「いや、逆。同盟の方が尊いからな」とか言って、二人で笑って、残念な気持ちになったのが去年。そして、高校最後も、当然僕は女子からチョコはもらえなかった。いや、別に気にしていない。毎年会合には安いチョコを男二人で交換してきたからだ。今年もそうなるだろう。母に一度チョコを見られて「女の子?」と言われたことがあった。実に虚しい。
会合の日、放課後。会合は海の家の近くのカフェだ。待ち合わせ時間の前に着いてしまったから、先にお茶してる、とラインして、ホットの紅茶をいただく。周りを見るとカップルばかり…見なきゃよかった。
ラインの返信がようやく来た。気がつけば待ち合わせ時間を過ぎている。海からのラインには、大事件が起きた、とあった。
「遅え」僕が言うと、興奮した感じで海はやってきた。
「悪いな」ニヤつく海にいらだつ。だが、海がテーブルの上に置いたおしゃれな箱。きれいにラッピングされたこれを見た瞬間、大事件の意味がわかった。
海はついに、人生初(僕が知る限り)の女子からのチョコをゲットしたのだ。それも、おそらく義理ではなさそうだ。
それから海は人生初のその体験を興奮冷めやらぬ感じで話した。僕は驚きつつも、友達の幸せを喜んだ。
「いやあ、ついにね。お前には悪いけど」
「気にするな」
「同盟は名前変更しようぜ」
「いや、お前すぐこっちに戻ってくるよ」
「なんだと」
海は笑いながら怒った。僕といるときには見たことのない本当に幸せそうな顔。
海は余韻を楽しむ、とか言って、さっさと家に帰った。

彼女を作ることについて海に先を越されたこと、悔しくはなくはない。妬ましくない訳じゃない。なんであいつが?とも思うよ。でも、今の気持ちのメインはそれじゃないような気がする。
僕も家に着いた。かばんの中から海に渡そうと思っていたチョコ。今日はさすがに渡せない。コンビニで買ったやつで安っちい、ラッピングなんてないけれど。
なんだろう、この気持ち。僕にとって海はなんだったんだろう。友達に彼女ができても、男同士の友情は何も変わらないはずなんだけど。
渡せなかったチョコは自分でもう食べてしまおう。甘いのが苦手な海でも食べやすいように選んだんだ。
ああ、ビターチョコだ。