お疲れ様です。
つばさです。
活動できていませんので、
以前時空モノガタリで投稿した小説を掲載します。
そんなに悪くない、と思っています。
https://www.jiku-monogatari.jp/entry/?mode=disp&key=9493&lid=&sort=&word=&page=1
老婆は死が近づいていた。
若いころから不死の法や長寿の薬を試してきた。その甲斐あってか長生きはした。歳の割に美しい肌で周囲にも驚かれるほどだった。しかし、死は近づいていたのだ。じきに死ぬことを薄々感じていた。彼女の親も言っていた。長く生きると、自分の死ぬときを自然に悟る。
老婆は死を恐れていた。そのせいで、彼女は一気に老け込んでしまった。この老け込みようのほうが恐ろしいものだ。ほとんど外出もできなくなって、寝たきりのような状態となってしまった。このまま、苦しみながら生を終えると思われた。
生にしがみついて醜くなっていく老婆を周囲は見ていられなくなった。一人、知り合いの男はこの老婆をひどく心配していた。
男は、老婆の好きだった海に連れて行った。波の音だけが響く静かな浜辺に二人きりで座った。
「わしは孤独じゃ。死ぬのは、一人じゃ」
老婆はつぶやいた。
「・・・友達を作ろうか」
男は砂で何か小動物のような形を作った。赤い実を二つくっつけて目にして、そして砂の動物に向けて、小さな声でささやいた。
「動いていいよ。行きな」
砂の動物は、命を得たように走り出した。嬉しそうに、飛び上がりながら。命のなかった砂は、命を得て嬉しいのだ。動けること、走ること、風、水の感触。全てが喜びなのだろうか。
「無生物催眠術か」
老婆のつぶやきに男は無視した。男は砂をつまんで、呪文をかけた。すると魔法の砂時計が出来上がった。
「五分だ」
「え」
「あいつの命は五分間だ。そういう術だ」
ついには、砂の動物は波と追いかけっこを始めた。波は砂を少しずつ崩していった。
「砂の体が、波に持っていかれるんじゃないか」
老婆は助けようと立ち上がった。男は首を振って止めた。どんどん体は流され、ぼろぼろになった砂の塊がよろよろと老婆の足元にやってきた。砂時計の最後の一粒がなくなると、嬉しそうに活き活きと飛び跳ねていた砂の塊は、元の命のない砂となった。ついていた赤い実が砂の中でただ目立っていた。
老婆は座り込んで、男を見た。
「もう一度、こいつに催眠術をかけておくれ。もう一度、こいつを走り回らせてやってほしいんじゃ。その姿がまだみていたい。五分なんて短すぎじゃ」
「あいつの命はたった五分間だった。私たちにとってはとても短い時間だ。でも、その五分に生きることの全てが詰まっていたと思わないか」
老婆は涙を流した。男は続ける。
「五分は短いかもしれないが、私たちの命も同じように儚い。空を見ろ。あの星に比べれば、私たちの命など、五分で散った砂とそれほど変わらない。だが、一度しかないから価値があるし、輝きを放つことができる。あの砂の姿を見て、わかっただろう」
「わしは、わしの命は輝くことができたじゃろうか」
「さあな。それは私が決めることではない。だが、長く生きているんだ、生きる喜びを感じた瞬間が少しはあったんじゃないのか、それに、死を悟ってから見えてくるものもあるかもしれない」
「そういうもんじゃろうか」
ふと見上げると、静かな空に流れ星が光った。
「わしも、最後にできることがあるのじゃろうか」
男ははじめてほっとした顔を見せた。
「そうだ」
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